恋は死なない。
「……これが、僕の夢でした。……兄が死んでしまうまでは、僕はケーキ職人になりたいと思っていたんです」
それを聞いて、佳音はいっそう目を見開いた。それから手元に視線を移して、二口食べてしまったケーキをしみじみと見つめる。
そのチョコレートケーキには、粉砂糖がふられ、泡立てられたクリームとミントの葉がきちんと添えられて、まるでお店で出されるもののようだった。
このケーキを見ていると、佳音の胸が締め付けられるように震えた。決して悲しくはないのに、涙が込み上げてくる。
「……森園さん?」
突然涙ぐんでしまった佳音の様子に、和寿が覗き込んで、心配そうに声をかけてくれる。
佳音はうろたえて、目を瞬かせて涙をごまかした。
「あまりに…、このケーキが美味しかったものだから……」
その涙の訳をそう言ってみたが、ケーキの美味しさに感動しているだけではなかった。
このケーキに込められた和寿の思いに、佳音の心が共鳴していた。
……和寿が、自分の夢を思い出して、語ってくれたことがうれしかった。
「ありがとうございます」
と言って笑ってくれる和寿に、佳音はとてもうれしく感じている今の思いを伝えたいと思った。
けれども、「頑張って、夢を追いかけてください」と、口まで出かかっていた言葉を呑み込んだ。
和寿のこの夢は、今からでは実現不可能だろう。今の和寿の責任ある立場が、それを許さない……。