恋は死なない。
「……こちらこそ、こんな素晴らしいものを食べさせてもらって、幸せです」
それが、佳音の精一杯の“気の利いた言葉”だった。それを聞いて、和寿は柔らかく微笑む。
「どうぞ、残りも食べてください」
佳音も頷いて、再びフォークを手に取る。
佳音の長いまつ毛で縁どられた大きく澄んだ瞳が、再びケーキを見つめる。細い指がフォークを握り、ひと口ずつケーキを切り取り、口に運ぶ。その度に、ゆるく一つに束ねられた佳音の長い髪の、耳元の後れ毛が揺れる。
バラ色の唇や栗色の髪は、普段日に当たることのない佳音の透き通るような肌の白さを際立たせた。
この工房という名の小さな箱の中に閉じ込められた、宝物のような女性(ひと)……。
向かい合う佳音の、そんな美しく可憐な様の一つひとつに、和寿の視線は捕らえられたように動かせなくなる。
すると佳音は佳音は顔を上げて、その表情に笑みを浮かべた。その途端に花が咲くように、可愛らしさが加わる。
思わずそれに見とれてしまう和寿を、佳音は首をかしげて見つめ返した。
「古川さんは、召し上がらないんですか?」
佳音から声をかけられて、和寿は我に返りぎこちなくケーキに目を落とした。