恋は死なない。
「…ぼ、僕は何度も味見をしてるんで、もう美味しいのかどうか分からなくなってるんですけど……」
そう言いながら、無造作に一口パクッとケーキを自分の口に放り入れる。
少し照れくさそうにする和寿を微笑ましく感じながら、先に食べ終わった佳音は、紅茶を淹れにキッチンへと立った。
それから二人はゆっくりと紅茶を飲んだ。
時折交わされる会話も言葉少なで、静かな時間が流れていく。沈黙が漂っても不思議と気まずくはならず、穏やかな空気がダイニングを取り巻いている。
しとしとと降り続く雨粒の規則的に落ちる音が響いて、二人でそっと耳を澄ませた。
「そろそろ仕事を再開します」
佳音がそう言って席を立ったのは、和寿がやって来て1時間が経とうかという頃だった。
和寿は頷くだけで、その場を動こうとはしない。和寿が佳音の作業するところを眺めるのは、いつものことだった。
ところが、佳音が作業場の電灯のスイッチを入れても、明かりが点灯しない。佳音は電球が切れていたことを思い出して、先ほど買ってきた新しいものを取り出し、取り換える作業を始める。
佳音が奥の部屋のドアを開けると、そこはベッドやチェストの置いてある佳音の生活の場だった。そこから小さなスツールを持ってきて、佳音はそれを作業台の上に置いた。