恋は死なない。
現実
佳音の心の中の状況が、どんなふうに劇的に変化しようとも、現実は昨日と変わりなくそこに横たわっている。目の前には、やらなければならない仕事がある。
幸世のウェディングドレス――。
この次の日曜日に幸世がフィッティングに来る予定になっているので、それまでに2度目の仮縫いを終わらせておかなければならない。
好きになった人の花嫁が着るドレスを作るのは、初めてのことではない。
古庄の花嫁になった真琴のドレスを作った時のように、ただ喜んでくれることを思い描きながら、心を込めて作り上げさえすればいい……。
もう完成した姿は、佳音の中で像となって出来上がっている。このドレスを着て幸せそうに笑う幸世の隣には――、和寿も同じ笑顔で笑っている。
いつか訪れる現実が頭を過ると、にわかに佳音の心は乱れて、針を動かす手も止まってしまう。
そういった意味で、明らかに真琴のドレスを作る時とは違っていた。あの時は古庄と真琴の幸せな姿が早く見たくて心が逸っていたのに、今はこんなにも切なくて苦しくて、心が押しつぶされそうになる。
けれども、どんなふうに佳音が思い悩んでも、現実が変わるわけではない。
そして、この仕事を成し遂げないと、たちまち佳音の生活は立ち行かなくなる。
生きていくためには、無心になるしかない。佳音はただ懸命に、自分の出来うる限り最高のドレスを作り上げるだけだった。