恋は死なない。
そんなふうに自分に言い聞かせていても、夜になって作業を終え、ドレスと向き合わなくなると佳音の自制心は途端にもろくなる。
静けさの中、雨の落ちる音を聞いていると、この前の出来事を思い出す。和寿に抱きしめられた時の感覚を、何度も何度も、体の中から呼び起こして噛みしめる。
柔らかく笑う和寿の優しげな印象とは対照的な、力強い腕……。
もう一度、あんなふうに抱きしめてもらいたい……。
和寿を恋い慕う心はそのまま、そんな願望となって佳音の中に充満した。
あの時、抱きとめて助けてくれただけではなく、確かに抱きしめられた感覚があった……。
その理由を考えると、佳音の心の中にほのかな明かりが灯る。
自分が“抱きしめられたい”と思っているのと同じように、和寿も“抱きしめたい”と思っているのではないかと……。
けれども佳音は、その明かりを即座に打ち消さなければならなかった。
和寿には、あんなに素晴らしい婚約者がいる。あんなに光り輝くような人を愛していないわけがない。