恋は死なない。



髪の毛を簡単に結わえてアップし、佳音の手を借りながら、結婚式本番と同じようにビスチェやパニエを着けて、仮縫いのドレスを身にまとう。

仮の花嫁さんが出来上がっていくに連れて、幸世の浮かれた顔つきも、真剣なものに変化していく。身に着けたドレスの仕上がり具合を、余念なくチェックしているようだ。


そして、幸世は佳音に手を引かれて、パーテーションの向こうから和寿の前に姿を現した。初めて見せる自分のドレス姿。幸世はいささか緊張した面持ちで、恥ずかしそうに和寿に微笑みかけた。
ダイニングの椅子に座って待っていた和寿も、その光景を見て、口角を上げて優しく表情を和ませた。


こんな二人を目の当たりにして、やっぱりこの二人は婚約者同士なんだと、佳音は痛感する。
佳音がどんなに和寿のことを知って親しくなろうとも、この二人の間には立ち入ることができない空気があった。

佳音の胸が痛みを伴って、キュウッと締め付けられる。あまりの苦しさに息もできなくなりそうになる。佳音は何とかそれをこらえて、幸世に向き直った。


「それでは、これから細かいチェックと修正をしていきます」


この仕事はどんな事情があっても、失敗することは許されない。今日のこのチェックの後は、微調整をしていよいよ本縫いに入ることになる。



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