恋は死なない。
玄関まで幸世を見送りながら、佳音も答える。仕事のことになると、しっかりとした口調で受け答えをする佳音を、和寿は表情を緩めて見つめる。
「いよいよね!出来上がるの、とっても楽しみよ!」
幸世は、頬を上気させてその表情を輝かせた。本当に、和寿の花嫁になるのを心待ちにしているようだ。
工房のドアを開けて先に幸世が出ていくと、和寿が佳音へと振り返った。
「お邪魔しました」
それから何も言葉を交わさなかったが、その眼差しで佳音に語りかけていた。「また、来ます」と。
佳音はその視線に微笑みさえも返せずに、ただ黙って会釈をした。
幸世と和寿が連れ立って階段を下りていくのを見送って、佳音はフーッと息を抜いた。
重苦しい緊張から解放されて、一気に体が脱力し、ダイニングの椅子に座り込んだ。
テーブルに肘をついて手のひらを広げてみたら、小刻みに震えている。それを抑え込むように、両手をギュッと握って唇に当てる。けれども、震えは収まることはなく、唇から全身に伝わった。
こんなにも緊張しなければならないのは、秘密を抱えているからだ。
幸世には告げないまま、和寿と何度も会っていたこと。そして、幸世の婚約者と知りながら、和寿を好きになってしまったこと。
こんなにも緊張してしまうのは、少なからずそこに罪の意識があるからだ。