オフィス・ラブ #0
「お茶、ご用意します」
大阪の局長が来社するのを迎えようとしていたところ、大塚が言った。
「助かる、5名だ」
今どきお茶くみOLなんてものもなく、こういうことは誰でも自分でやる。
けれど女性がいれば、自然と頼んでしまうのは不思議な習性で、彼女は新人ということもあり、しょっちゅうお茶出しの役目を担っていた。
失礼します、と応接ブースに運ばれてきたのは冷茶だった。
どこに冷茶なんてあったのか。
いつの間にか部署の給湯係のようになっている彼女が、用意しておいたものなんだろう。
年配の局長に合わせて選んだのであろうそれは、やはり喜ばれた。
会合が終わると、それを見はからったように、さっと片づけに来た。
こういう役割を、差別と嫌う女性社員がいることも、知っている。
けれど彼女は、特に気にもしていないようで、こうして進んで引きうける。
「気にならない?」
どう感じているのかと思い訊いてみると、新人ですし、と屈託のない返事が返ってきた。
それに、と手際よくグラスを洗いながら続ける。
「私も、お茶は女の人に出してもらうほうが、嬉しいです」
何がそんなに楽しいのか、にこにこと。
グラスはしまっとく、と伝えると、素直に「ありがとうございます」と返ってきた。