オフィス・ラブ #0
足音を忍ばせるのも妙かと思い、極力普通に家に上がった。

リビングには誰もいないから、どう考えても寝室だ。


思わずノックをしようとして、それがいかに見当はずれな行為か気がついた。

目にするであろう光景を覚悟しながら、ドアを開ける。


そこで実際見たものは、最悪の予想ほどは生々しくなく、ダブルサイズのベッドの上で彼女と見知らぬ男が激しいキスを交わしている、というものだった。


腹が立つとか悲しいとか以前に、毎晩自分と寝ているベッドで、よく他の男とできるな、というあきれにも似た思いが最初に襲った。

純粋に、気持ち悪くはないんだろうか。

男も男だ。


新庄の帰った音には気づかなかったらしいふたりも、寝室に入った時点でさすがに気がついた。

女は、青くなり、続いて赤くなり。

最終的には、何見てるのよ、と新庄に怒りをぶつけた。



「着替えたいんだけど」



とりあえず、一番に頭にあることを正直に告げると、なぜか女は逆上した。



「そんなふうだから、ついていけなくなったの」



泣きだす彼女を、所在なさげにうろたえていた男がなぐさめる。


なんだろう、この場面は。

新庄はやけに冷めた気分で、それを見ていた。



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