オフィス・ラブ #0


オフィスのドアが音を立てて跳ね返り、課長が入ってきた。



「大麻所持容疑で、逮捕だ」



両チームの全員に聞こえるよう、だけど声をひそめて言う。


フロアが騒然とする。

去年から、ある商品のキャラクターとして起用している、女性タレントの話だ。


当然、この代理店を通して起用してもらったタレントで、今使っているCF撮影の際には、新庄も一緒に仕事をした。

清楚で礼儀正しく、大麻なんて、とてもそんな雰囲気には、見えなかったのに。


製品チームのうち、該当する商品を担当しているメンバーが3名、さっと立ちあがって上着をとる。

事務所への事実確認と交渉、そしてクライアントへの謝罪だ。


新庄は幸い、今は担当する商品が異なるため、いくらか落ちついていられた。

と、メディアチームの新人が目にとまる。


彼女と一緒に動くはずの、関根という雑誌担当の先輩社員が、席にいない。

何か重大なことが起こって、対処しなければならないのは感じていても、何をしたらいいのかわからないんだろう。

困惑の表情で周囲を見ている。


他のチームメンバーは、こんな時には当然ながら、自分の媒体の対応に追われてそれどころではない。

新庄は、メディアチームの席に向かいながら声をかけた。



「大塚さん」

「はいっ」



急に呼ばれて驚いたのか、やけに威勢のいい声が返ってくる。



「関根さんに電話して、何があったか伝えるんだ、指示をくれるはずだ」


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