瞳の中で誰よりも
私が俯いて黙っていると、夕紀さんはまた優しく笑って、「いろいろあるよなみんな」と私の頭をくしゃっとして、ディナー前の仕込みの仕事に戻っていった。
一瞬の出来事になぜか頬が熱くなる。
手の温かさをもっと、知りたいって、思ってしまう。
憧れ、なのかな。
携帯を開くとメッセージが12件に増えていた。
全部が和樹だ。
そういえばさっき結局返信できてなかったよね。
和樹から送られてきているメッセージを見ると、浮気を疑う内容や返事を催促する内容、どれも溜息のでるものばかりだった。
『ごめんね、バイト先で寝てて、寝ぼけてメッセージ開いちゃったっぽい。無視したつもりないよ』
軽やかに文字を打ち切り送ると、数秒で既読がつき、数秒でメッセージが届いた。
『心配した。なんもなくてよかった。大好き』
送られてきたメッセージを無駄に指でなぞってみる。
心配って、あたしのことが心配なんじゃなくて、浮気とか、そういう心配しかないんでしょ。
自分勝手だなあ、って思うけど、でも、あたしだって、彼の心配なんかしたこともない。
そんなもんなのかな。