お嬢様はじめました。
目の奥が熱くなった。


咄嗟に外に顔を向けた。



「それは違う」

「違うって……何が」



窓の外から目を離せなかった。



「お前が宝生院ってバレれば、鳳会長は喜んで玲との交際を認めるだろう」

「何でよ、婚約者がいるのに?」

「玲が婚約を結んでる女には兄がいる。 つまり跡取りがいる為、玲が実権を握る事はない。 が、宝生院家の跡取りはお前しかいないから、実権を握る方向に話は進むだろう。 鳳会長としてはその方が都合がいいからな」



何それ。


やっぱりそんなの変だよ。


本人の気持ちは関係ないの?



「でも、玲にとってはその子と一緒になった方が都合がいいんだよね?」



大好きなモデルの仕事を続けられるし、他にやりたい事を見つけられるかもしれない。


玲の為を思うなら、やっぱり私が宝生院だって知られるわけにはいかない。


海堂は「そうだな」と小さく呟いた。


上手く言葉が出なくて、笑う事しかできなかった。


っ__!?


海堂の手が頬に触れてビックリした。



「俺が泣かせてるみてーだろ」



海堂の手を振り払って俯いた。


俯いた途端涙が溢れ出てきた。


海堂から冷たい言葉を浴びせられると思ってたけど、何も言われる事はなかった。


それどころか、泣き止むまで静かに隣で待っていてくれた。





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