お嬢様はじめました。
チケットを買うのに財布を出したら、玲に止められた。



「今日はご褒美だろ?」

「いや、でも! 私は玲にいっぱいお世話になったし、私の方が出さなきゃでしょ!?」

「ダメ。 葵が出すなら俺観ないから」

「じゃあ……お言葉に甘えて……」



私の頭を撫でた玲の顔に見惚れてしまった。


それは私だけじゃなくて、窓口のお姉さんの目もハートになっていた。


あんな場面を見ていなければ、素直に王子様みたいな人だと思っていたかもしれない。



「はい」

「ありがとう」



玲からチケットを受け取ると、嬉しさと懐かしさに襲われた。


映画なんていつぶりだろう。


お父さんとお母さんと三人で来たのが最後かもしれない。



「どうかした?」

「あ、ううん。 何でもない」



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