冴えない彼は私の許婚
「お祖母様有難うございます」とお祖母様へお礼を言い、部屋を出て自分の部屋へと向かう。
お祖母様の部屋を出るとすぐに、朱音が追いかけて来た。
「お姉様待って! お姉様良いの?」
「何が?」
「お姉様お仕事辞めていいの? お婿さんをもらうって事は、今の仕事を辞めて家の会社を継ぐって事でしょ? それでいいの?」
「………」
「嫌なら嫌だって言わなきゃ!」
「そうね? そう言えたらいいわね…
私は朱音が羨ましいわ…」
朱音にそれだけを言って、私は自分の部屋に戻りお化粧をする。
そして、昨日持ち帰った試作品を唇に塗り、鏡の中の自分に問いかける。
「この口紅を最初で最後の作品にしても良いの?…」と指で唇に触る。
その後は、馴染みの美容師に家まで来てもらい髪を結い上げてもらい、着物は木理子さんに着付けてもらって支度を整える。
お祖母様と、お父様お母様は同じ車で出掛け、私と朱音は同じ車で出掛ける。
車の中では、私達二人は終始無言だった。