冴えない彼は私の許婚
強引だけど優しい人?

恭之助さんの車は暫く走ると、マンションの地下駐車場へ入った。

「ここは?」

「俺の家」

「え?」

「ここならゆっくり話も出来るだろ?」と言われ車から降りエレベーターに乗り込むと、エレベーターは最上階に止まった。

デザイナーズマンションの最上階だなんてさすがは葉瀬流の孫だわね…?
玄関を開けてもらい部屋に入るとシックな家具でコーディネートされたお洒落な部屋。

「適当に座って」と言うとキッチンへ行き暫くして戻ってくるとベーグルのサンドウィッチを持って来てくれた。

「飲み物はコーヒーで良い?」

「はい…」

恭之助さんはコーヒーを入れたカップを私の前に置くと「食べないの?」と聞く。

「え?」

「ホテルでは、ほとんど食べて無かっただろ?
俺に見とれてたからさ?」と恭之助さんは笑う。

「み、見とれてなんか居ません!」と私は横を向く。

「ふーんまぁいいけど食べないの?」

「食べます!」

私はサンドウィッチを手に取り一口食べる。

「美味しいー!」

モチッとしたパンに、中には私の好きなスモークサーモンとクリームチーズが入っていた。
コーヒーも私がブラックって知っていたのか砂糖もミルクも用意されて無いし、中にも入ってない。

「あの…葉瀬さん、いつもと雰囲気が違いすぎるんですけど…?」

私がそう言うと、恭之助さんは楽しそうに

「あぁ、会社では冴えない根暗な男だからな?
碧海ちゃんの許婚としては不合格だったんだろ?」と嫌味を言う。

「べ、別に不合格だなんて言ってないじゃない!?」

いや確かに冴えない根暗な男は嫌だと思っていた。

「でもなんで隠してたんですか? 本当の自分を?」

「会社ではこの方が何かと便利なんだよ、女性陣から声掛かる事もないし、男性陣からも根暗でつまらないから、飲みに誘われたり合コンに駆り出される事ないから、仕事に専念出来る」

あぁそういう事か…
この人は仕事が大好きな人だもんね?
でも、何気に自分はイケメンだって言ってない?

「だからって私にも隠してなくても…」

「俺は碧海ちゃんに隠すつもり無かったけど?
生け花を教えている時は、本当の自分を出してるし、木理子さんの前だってそうだけど?
碧海ちゃんが、俺を避けていたからじゃないかな?」

「あ…」そのとおりです。

確かに木理子さんは恭之助さんはとても素敵な方だと言っていた。
私が、お稽古にちゃんと行っていれば、分かった筈だ。

「すいません…そのとうりです」と俯く。

恭之助さんは私の横に座ると「で、これからどうする?」と聞く。

「は?どうするとは?」

恭之助さんが何を言おうとしているのか全く分からない。

「許婚の件、俺から断った方が良いの?
どうしても俺じゃ嫌なら仕方ないけど?
俺は碧海ちゃんと結婚したいけどね?」と私の顔を覗き込む。

ちょっと近い近い近すぎます!
恭之助さんは、右手を私の顎の下にやり私の顔をクイッと上げる。

「まずは、この試作品を試してみるか?」

「えっ?」

「来週のプレゼンのデータ要るだろ?
濃厚なキスで落ちないか?」

あっ玲美ちゃんと話してたの聞いてたんだ…?
考えている間もなく恭之助さんの唇が私のに落ちて来た。
優しいく触れるキスから啄む様なキスへ、私は息が苦しくなり、唇を少し開けると、すかさず恭之助さんの舌が入って来た。
最初は恭之助さんの胸に両手を押し当て拒もうとしたが、次第に私は恭之助さんの背中へ腕を回していた。

「ん…」

恭之助さんは、私の口内を探るように私の舌を絡めとり吸い上げた。

「ん……ぁ…」

思わず漏らした私の声に恭之助さんは、「感じた?」と聞き、再び激しいキスをする。

こんなキス初めて…頭のしんまで痺れるようなキス。もうなにも考えられない。
体が離れてからもまだボーとして雲の上にいるみたい。

「うん、素晴らしいね?」

え? 私とのキスの事?

「口紅ほとんど落ちてない」

なんだ口紅か…
少し残念に思ったが、直ぐに我に返る。

そう口紅よ口紅!

私はバッグからコンパクトを取り出し、口紅を見た。

「うん、あんなに凄いキスしたのに剝げてない」と唇を触ってみる。

「凄いキスね?」と恭之助さんに言われハッと気づく。

やだ恭之助さんのキスを喜んでるみたい。

「あ、あの試作品のテスト有難う御座いました。私帰ります」と立ち上がる。

恭之助さんは私の腕を掴んで「まだ返事聞いてないけど?」と言う。

「返事?」

「あぁ俺との結婚の事?」

「…………」

黙っていると抱き寄せられ、再び激しいキスをされ恭之助さんは唇から首筋、うなじへと恭之助さんは唇を這わせる。

「あぁ…」
体の力が抜けていく。

「どう? 俺との結婚考える気になった?」

もう私は恭之助さんの虜になっちゃったみたい。
私は首を縦に振る。
着物の裾を開け、襦袢の上から私の太ももを触る恭之助の手を私は抑える。

「…ダメ…」

「ここまできて、我慢できないけど?」

「だって…振り袖は自分で着れないの…」

「大丈夫後で着付けに来てもらえば良いよ」

「………」

「ん?まだ他にあるの?」

「…私…初めてなの…」

「え?」

今どき珍しいかしら?
25歳で初めてなんて…
でも仕方ないじゃない。
初めてなものは初めてなんだもの…
私は俯いていると

「あれだけ遊んでたのに?」と恭之助は笑う。

「あれだけって…
どれだけ私の事知ってるのよ! フン!」
私は顔を背ける。

「伊東さんとクラブ通いしてただろ? 男と遊んでたんじゃないの?」

「クラブ通いって…
男あさりに行ってたみたいに言わないで!
気晴らしに踊りに行ってただけなんだから!」

「へーそうだったんだ?
まぁどっちにしても、バージンてのは俺は嬉しいよ!」と、恭之助さんはチュッと軽くキスをする。

「………」

「じゃ今日はおあずけか? 仕方ない碧海ちゃんの心の準備が出来るまで待つよ?」

え? 待つの?…
すごく強引な人だと思ったら、私の気持ちを大事にしてくれる…
本当は優しい人なの?

「その代わり、これからは俺の事避けないで付き合えよ?」

「うん…」

それからいつまでも着物だと疲れるだろうからと家まで送ってもらい、明日の約束をして別れた。

確かに今日は疲れた…
振り袖は袖が長いし、帯は大きな作り結びでいくら着物が好きな私でも、長い時間振り袖を着てるのは辛い。
恭之助さんは、そんな私を察して気遣ってくれたのね?




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