冴えない彼は私の許婚
最後の作品…

目を覚ますと隣には愛しい恭之助さんがまだ眠っている。
昨日は恭之助さんから贈られた素敵なドレスを纏い、お義母様からも大切な物を譲り受け、そしてみんなに祝福してもらい素敵な夢のような一日だった。そして私達は心だけじゃなく体もひとつになった恭之助さんは私へ優しい言葉、優しいキスを沢山与えてくれた。昨夜の事は夢じゃないと体の違和感が教えてくれる。私は恭之助さんを起こさないようにそっとベッドから出て、一糸纏わない自分の躰に沢山の花びらが…思わず恥ずかしくなり顔を手で覆う。でも恥ずかしさより幸せな気持ちが強いのもたしかだ。
カーテンを少し開けるといいお天気、散歩しようと朱音に持った来てもらった服に着替え庭に出てみる。

「うーん気持ちいー」

両腕を青空に向かって伸ばす。
そうだ妙子さんが育てているハーブを見に行ってみよう。
裏庭に行くと妙子さんがハーブを摘んでいた。

「おはようございます」

「あら?碧海ちゃんじゃなくて碧海様、おはようございます」

「碧海ちゃんで良いですよ?」私達はと微笑む。

「お早いですね?眠れませんでしたか?」

「いいえ、妙子さんのハーブティのお陰でぐっすり眠れました。有難う御座いました。いろいろハーブを育ててるんですね?」

裏庭いっぱいに野菜や沢山のハーブを育てていた。

「ええ、このローズマリーやタイム、オレガノはお肉料理には欠かせませんからね?お野菜も出来るだけ無農薬で育ててるんですよ」

「うわぁ大変ですね?」

「いいえ、私の趣味ですから楽しんでいますよ」と本当に楽しそうに話してくれる。

「直ぐに朝食の用意をしますね?」と言う妙子さんに首を振り「もう少し散歩したいので恭之助さんが起きてから一緒に頂きます」と言って裏庭を離れた。

中庭の大きな樹の下まで来るとブランコを揺らしてみる。
幼い頃乗ったブランコはちゃんと手入れされている様だ。

「乗っても大丈夫かしら?」

私はそっと腰掛けてみると大丈夫そうだった。

「良かった」

壊れなくてほっとする。
昨夜の彼も本当に優しかった。
初めての私を気遣いながら優しく抱いてくれた。
まだ彼のぬくもりが残っているみたい。
朝日に左手を翳す。すると左手に神々しく光ものが…

「綺麗…でも大きすぎないかしら?」

「そんな事ないよ俺の愛より小さすぎる」

え?

恭之助さんが後ろからストールを肩に掛けてくれた。

そして恭之助さんは「おはよう」と頬にキスを落としてくれる。

「目を覚ましたら碧海が居ないから寂しかったよ」

私はブランコから立ち上がると恭之助さんに抱きついて

「おはよう」と恭之助さんの唇にキスをする。

「碧海、朝から煽るなよ?」

「え?」

恭之助さんはクスと笑うと「妙子さんが朝食を作ってくれたよ一緒に食べよ」と手を引いてくれる。

朝食には妙子さんが焼いてくれたクロワッサンとバジルのパン、オムレツにはルコッタが添られている。

「妙子さんこのバジルのパン美味しいです」

「有難うございます」

恭之助さんは会社でいつもお昼はパンを食べている。
私が作ったら食べてくれるだろうか?

「私でも作れるでしょうか?」

妙子さんは「えぇ作れますとも、宜しかったらお教えしますよ?」といってくれる。

「本当ですか?お願いします。後で教えてください!」嬉しくって大きな声でお願いすると

「碧海、残念だけどそれはだめだよ」と恭之助さんが言う。

え?だめ…

「明後日は新商品のプレゼンだろ?帰って準備しないと?」

あ…そうだった…あまりの幸せに仕事の事を忘れていた。
今日は祝日で会社は休みだけどプレゼンの準備をしなくてはいけない。

「そぅでした…」私は肩を落としてがっかりする。

すると「今週末また来ればいいさ、その時に教えて貰ったら?」と言ってくれた。

「え?また連れて来てくれるの?」身を乗り出して聞く私に。

「あぁいつでも連れてきてあげるよ」と恭之助さんは笑う。

「妙子さん週末来ますね!?」

「はい、お待ちしてます」と妙子さんは微笑んでくれる。

朝食を済ませると直ぐに別荘を出た。
恭之助さんは「このまま会社に寄るよ?」と言って車を走らせる。
車を駐車場に止めると会社の通用口から警備員さんに挨拶をして誰もいない開発室に2人で入る。

「なんだか不思議」

「なにが?」

「金曜日までの恭之助さんと全然違う恭之助さんがここに居るんですもの…」

「まぁ今日は特別だけどね?」

「え?特別なの?」

「あぁまだ暫くは碧海の嫌いな冴えない根暗な男で居るよ」と右口角を上げて微笑する。

「別に嫌いじゃなかったわよ…ただ苦手だっただけ…だって恭之助さんたら目も合わせてくれないし『なに?』『うん』『そう』『別に』しか話してくれないんだもん」

「あぁ確かに」と笑ってパソコンの電源を入れる。

それからはお互い仕事の顔になった。

「葉瀬さんここなんですが、この数値のままだと少し潤いに欠けるかと思うので、もう少し数値を上げたいんですけど、ただ…コストがかなり高くなるんです…」

「多少コストが掛かっても良い物を作れ!」

「でも…予定より…」

「差咲良はその方が良いと思うんだろ?ならそれを社長に納得させれば良い」

「はい!」

恭之助さんの仕事に対する姿勢を初めて目にした。
この人は妥協を許さないから数々のヒット商品を作って来たのだろう。
コストを抑える事は会社にとって大事な事、だけど私は納得したものを作りたい。
だから私も妥協はしない。
必ず社長を納得させるものを作る。
私の最初で最後の商品になるかもしれないのだから…
データを入力すると研究室に入り改めて試作品を作る。
そして冷蔵庫に入れ冷やして固める。
データ上は間違いないが、実際出来上がらないと分からない。
私は上手くいくように祈る。
待っている間恭之助さんはハーブティを淹れて私の前にそっと置いてくれた。
別荘を出る時に妙子さんがブレンドしたハーブを持たせてくれたのだ。
恭之助さんは何も言わないけど「大丈夫だ」と言われた様だった。
暫くして冷蔵庫から試作品を出してみる。

「うん、やっぱり違う!」

色も艶も今までの物より断然良い。
これで行きたい!

「葉瀬さん?」

「あぁそれで行こう良く頑張ったな?」

「有難うございます」

自分の満足できる物が出来た喜び、そして恭之助さんに褒めてもらった嬉しさで涙が溢れてきた。

「碧海どうした?」と私の涙を拭ってくれる。

「私、嬉しくて…」

「まだ終わってないぞ?プレゼンで社長や重役たちを納得させないといけないからな?」

「うん、そうだね?」

「取り敢えず準備は出来た。明日チーフや部長に報告して水曜日のプレゼンに望むだけだ」

恭之助さんありがとう。




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