冴えない彼は私の許婚
太鼓判頂きました
「16時か?腹減ったな?」
確かにお腹空いた。
試作品を作るのに必死で朝食べてから何も食べていない。
「何処かで食べて帰るか?」
「うーん…」
なんだか疲れたからどこにも寄りたくないな…
「碧海、疲れたみたいだな?じゃ家でピザでもとって食べるか?」
「うん、そうしたい…」
恭之助さんの部屋に入るとソファーにドスンと座る。
恭之助さんは「なにか飲むか?」と聞いてくれる。
私は「あっ私がやります」とソファーを立つと
恭之助さんは「良いよ座ってろ!」と言ってキッチンに入って行く。
「すいません…」とまたソファーに座る。
恭之助さんはコーヒーを淹れてくれた。
うーん良い香り。
今日も砂糖もミルクも用意されてない。
「ねぇ恭之助さん私がブラックだって知ってた?」
「あぁ知ってるよ?」
やっぱり知っていたから出されてなかったんだ。
「碧海の事はなんでも知ってるぞ?コーヒーはブラック、スモークサーモンとクリームチーズのディップが好きだがサーモンのムニエルは嫌いで、レアチーズケーキは苦手、それから焼きそばはソースじゃ無くて醤油か塩糀」
「アハハ…それ前に玲美ちゃんと話してた事?」
「まだ知ってるぞ?根暗で冴えない男は嫌いだがイケメンの俺は好きだって事も」と片眉を上げて言う。
「もう…ごめんなさい許して…でも、イケメンの恭之助さんを好きになったんじゃないの…恭之助さんの優しさが分かったから好きになったのよ?」
「あぁ分かってるよ?イケメンが好きなだけならいくらでも居ただろうし、クラブでも声掛けてくるイケメンは居ただろうからな?まぁ碧海が他の男に惹かれていたとしても俺に振り向かせる自信はあったけどね!」
「すごい自信ね?」と二人で笑う。
恭之助さんが頼んでくれたビザを食べながら小さな頃の話をした。
いつも葉瀬家の別荘に行く時はお祖母様と私の二人だった事や家元にとっても可愛がってもらっていた事やあまりの可愛さに家元が養女にならないかと言った時恭之助さんが僕がお嫁さんにするからと断固反対した事。私はあまり覚えていないけど恭之助さんはいろいろ話してくれた。
「うちのじぃ様ずっと碧海のばぁ様の事好きだったと思う。たぶん碧海のばぁ様もだと思うよ?」
え?
「あっ不倫とかそういう関係って事じゃないから誤解するなよ?じぃ様が食事会の時に言っていた話を覚えてるか?振られたって話」
「うん…」
「じぃ様と碧海のばぁ様は付き合っていたらしい。だが、お互いの立場や柵(しがらみ)があったんだろうな?自分達の気持ちのままには出来なかったんだろと思う」
「そんな…」
「だから、じぃ様は俺に碧海の事を好きなら諦めるなって言ってくれた」
「諦めるな?」
「俺一人っ子で一応跡取りで後継ぎなわけ、碧海は長女で差咲良家の跡取りだろ?」
「あ…うん…」
「まぁ俺も昔は何も考えず何人かの女と付き合って遊んだ。あっごめん、こんな話聞きたくないよな?」と眉をひそめる。
私は黙って首を振った。
「でも碧海が入社してきた時俺マジで碧海に惚れたんだ、それまで付き合ってた女達とも直ぐに別れた。でもあの差咲良家の碧海だって知って諦めるしかないって思った。俺も家の柵が気になってな…そんな時にじぃ様が碧海のばぁ様に話をしてくれた。俺が碧海を好きだって話をそしたら『碧海が望むなら』と言ってくれたんだ」
「お祖母様が?」
「あぁだから俺は諦める事はやめた。絶対に碧海を俺のものにするってな!それで碧海のばぁ様に頼んで取り敢えず許婚って事にして貰った」
「お祖母様が決めた事じゃ無かったんだ?」
「あぁ俺が頭を下げて頼んだ」
「もし…もし私が恭之助さんを好きにならなかったら…」
「言ったろ?俺には自信があったって…」
恭之助さんは何故か寂しそうな顔をする。
「て、言うのは嘘、本当は不安だったよ…俺の印象あんまり良くなかったし、碧海、俺の事避けていたからな…」
「ごめん…」
「でもこうして俺のものになった」
抱きしめられ恭之助さんの唇が私のに落ちて優しいキスから啄むキスへ
「愛してる碧海」
抱き抱えられ寝室のベッドへ降ろされる。
そして一糸纏わぬ姿になると恭之助さんは沢山の花びらを散らした。
「碧海、碧海!」
「ぅ…ん恭之助さん…」
恭之助さんに抱かれて眠ってしまったようだ…
「今日泊まって行くか?」
「ん…明日仕事だし着替えないから…」と言いながらも恭之助さんのぬくもりから離れられない。
「じゃ朝早くに着替えに戻るって言う事で、碧海…」
そして再び愛し合う…
翌朝早くに恭之助さんに送ってもらい、恭之助さんは先に出勤すると言って車を走らせて行った。
私はシャワーを浴び着替えを済ませて出勤した。
「おはようございます」
私は開発室の扉を開けると元気よく挨拶した。
先に出勤していた恭之助さんいつものように髪はボサボサ、瓶底メガネ、白衣はシワシワ、猫背になってパソコンに向ってる。
でも、1つ違うのはチラッと私を見てくれる事。
「おはようございまーす」「おはようございます」
玲美ちゃんと木ノ下君が出勤してきた。
「先輩、試作品のデータ取れました?」玲美ちゃんは興味深々に身を乗り出して聞く。
「う…うん、まーね…」
曖昧な返事をして恭之助さんを見る。
恭之助は笑いを堪えているようで肩が震えてる。
もう…うろたえてる私は馬鹿みたい…
「で、先輩の彼氏ってどんな人です?全然話しに出た事無いですよね?」
「えーとねぇ…いつもシワシワの服を着て姿勢が悪くて無口だと思っているとお洒落でイケメンで頼りになって優しくて気弱な俺様って人」私は笑いを堪えて話す。
恭之助さんのパソコンを打ってる手が止まる。
「なんですかそれ?全然分かんない」と玲美ちゃんが言うと
それを聞いていた木ノ下君が吹き出して笑う。
「一郎太何がおかしいのよ!?」
「な…何でも無いよ…クククッ」
玲美ちゃんが怒ると木ノ下君が笑いを堪えて答える。
「おい!そろそろ仕事しろよ!?差咲良、葉瀬ちょっといいか?」
私達は九龍さんに呼ばれる。
「はい、何でしょう?」
「明日の準備は出来てるか?」
「はい!」
「じゃ今から小会議室まで持って来てくれ」
準備をして恭之助さんと7階にある小会議室のドアの前で立ち止まる。
私は深く深呼吸をする。
恭之助さんは私の手をそっと触れると小さな声で「大丈夫だよ」と言ってくれる。
ドアをノックして開ける。
会議室には部長と九龍さんが待っていた。
明日のプレゼンの試作品と資料を見せる…
私は部長の判断を固唾を呑んで待つ。
「コストは高くなっているが…良いものが出来てると思う、このアプローチの仕方もなかなか説得力が有るよ!こんなアプローチの仕方初めてだよ?これなら間違いなく売れる社長もGOを出すだろう」
アプローチの仕方?
説得力がある?
初めて…
部長が何を行っているのか分からない…
「明日のプレゼンはこのままで行くから、二人共出席するように」
「差咲良聞いてるか?」
部長の話を聞いていなかった私に九龍さんが声をかけるが反応のない私を恭之助さんが肘で突っつく。
「えっ?」
「部長が太鼓判を押したんだよ!」と九龍さんに言われる。
「あ、有難うございます」と思いっきり頭を下げる。
部長は「良くやった」と九龍さんは「じゃーな」と言って会議室を出て行った。
「良かったな?」と恭之助さんが声を掛けてくれる。
「うん、有難う。ねぇアプローチの仕方ってなに?私そんなの作ってないよ?」
「あぁあれね?こうした事を書いといた」
こうした?…
恭之助さんは私を抱きしめキスをした。
私の舌を絡め吸い上げる激しいキスを…
「ん……きょう…の……すけ…」
会社でキスをするなんて……
恥ずかしくて顔が赤くなる。
恭之助さんは唇を離すと
「本当にこの口紅凄いよな?全然落ちないもんなオフィスラブもバレないな?」と笑って言う。
オフィスラブしたくなるルージュ…