冴えない彼は私の許婚
誤解?
「ちょ、ちょっと待って」

「待てない!」

恭之助さんは私の手を引っ張ってエレベーターまで急ぎ足で行く。
私は、転びそうになりながら必死に付いて行く。
エレベーターに乗り込んでも恭之助さんはイライラして落ち着かない。

「クッソーこのエレベーター遅すぎる!」

「…あのきょ」

名前を呼ぼうとしたところでエレベーターはポンと軽快な音で47階に止まり扉が開く。
再び恭之助さんに引きずられるように連れて行かれる。
恭之助さんは4705号室の前で止まりカードキーを差し込むと繊細な音でロックが解除される。

「入って!」

「…」

私は言われるがまま部屋に入る。
恭之助さんは直ぐに私を抱きしめキスをしようとしたが私は両手を口に当ててそれを拒んだ。

恭之助さんは顔を歪め「なぜ拒む?」と聞く。

「だってニンニク…」

「構わない」と言い再びキスをしようとしたが私は口を押さえたまま首を振る。

恭之助さんは一つため息を付くと諦めたのか部屋の電話で何処かに電話をする。

そして恭之助さんはソファーに座り「碧海こっちへおいで」と呼ぶ。

私は口を押さえたまま側へ行き恭之助さんの向いのソファーに座る。
部屋はとても広くいくつも扉がある。
調度品も豪華さの中にも品があるものが置かれている。
さすがクレラントホテルだけはある。

「碧海、どうして電話に出なかった?」

恭之助さんは真っ直ぐ私を見つめ聞く。

「……」

「話してくれないのか?…」

恭之助さんは凄く悲しそうな顔になるが下唇を噛んで決して私から目を逸らさない。

「ごめんなさい…」

「碧海を攻めてるんじゃない…心配してたんだよ?俺は嫌われたのかと不安だった…碧海…頼む話してくれ!」

恭之助さんはとても寂しそうな顔で私を見つめる。

「…私、昨日ここに来たの…恭之助さんに差し入れをしようと思って…サンドウィッチを作って持って来たの…」

恭之助さんは凄く驚いているが私の話を最後まで聞こうと何も言わずに待ってくれている。

「私見たのロビーで可愛らしい女の人と腕を組んでいる所をそして2人で、エレベーターに乗って行ってしまった…」

恭之助さんは頭を抱えて何も行ってくれない。
恭之助さん…否定してくれないの?
嘘でもいいからあの人は何でもないって言って欲しい。
あなたの口から心配するなって、私は言って欲しいの…

「私、見間違いであって欲しくて電話したの…フロントからも電話してもらったけど…出てくれなかった…」

「ごめん…」

恭之助さん…
ごめんって認めるの?
あの人は恭之助さんの…恭之助さんの好きな人なの?
嘘…
私は、こみ上げてくる涙を必死で堪えた。
ここで泣いちゃいけない。泣いたら恭之助さんが困る。
帰ろう…
このままここに居たら恭之助さんを責めてしまいそう。
私達は互い跡継ぎ、これがさがだと思って帰ろう。
私は立ち上がろうとした時、恭之助さんの肩が震える。
恭之助さん泣いてるの?…
すると恭之助さんは声をだし笑い出した。
えっ?
そこへ扉をノックする音がして恭之助さんは扉を開けに行く。
恭之助さんはルームサービスを頼んでいたようで、ラーメンが運ばれて来た。

「碧海ちょっと待ってろ」とラーメンを食べ始める。

なぜ今、ラーメン?

「あのー」

恭之助さんは「結構入ってるな?明日大丈夫か?」と言いながらスープまで残さず食べきる。

「よし!これでいいだろ?」と恭之助さんは私を見る。

「はぁ?」

恭之助さんは立ち上がり私の隣に座るとキスをしようとする。

「え?ちょっと恭之助さん」

恭之助さんの胸に手を押し当て離れる。

「俺もニンニク食べたけど?」

「ニンニク?…そうじゃなくてさっきの話」

「あぁあれね!?」とまた笑い始める。

私は恭之助さんが何が可笑しいのか分からず笑っている恭之助さんに腹が立った。

そして「帰る!」と言って立ち上がる。

しかし、「あっごめんごめん」と恭之助さんは私の腕を掴む。

「ちゃんと話すから座って?」

私は、仕方なくもう一度座り、恭之助さんのはなしをまった。

「あの時見られてたんだ?…声掛けてくれれば良かったのに?一緒に居たのは杏華だよ、別荘で会ってると思うけど?」と首を傾げて私を見る。

え?杏華さん?…従妹の杏華さん?

「展覧会の準備で来ていた杏華に上のレストランで食事を奢れってせがまれて仕方なく上のレストランに行ったんだ、実は以前からせがまれていたんだ!ここのレストラン夜景綺麗だろ?携帯はマナーモードにしていた事忘れて居て気が付いた時は翌日で、もう碧海は始業時間始まってたし…昼休みまで待って何度もかけたけど出ないし、終業時間になっても出てくれないしかけ直してもくれないから、木ノ下に電話したら様子がおかしかったって言うしマジ心配した、あげくにやっと電話が繋がったと思ったら男と一緒にいるってマジありえねぇー」

「ごめんなさい…」

「良いよ誤解が溶けたなら、でも俺がこんなに碧海の事好きだってまだ分かんないのかな?もっと体に刻み込まないとダメだな?」と抱きしめてキスをしてくれる。

「ん……ぁ…」

ても、恭之助さんの優しいキスは直ぐに離れた。

「このまま刻み込みたいけどまだ準備出来てないんだ少しお預けだな?」

私が電話に出なかったせいで落ち着いて生けれなかったそうだ。
本当に申し訳ない…
恭之助さんと一緒に会場となる2階の大広間、鳳凰の間に行き恭之助さんの生ける姿を見ていた。
真剣に生けている姿に一言の言葉も掛ける事が出来なかった。
長く真っ直ぐ伸びた3本の白い竹を軸に碧い花が生けられる。
これは…

「出来た!」

「恭之助さんこれ…」

「絢爛、清楚、品格、碧海を生けた」

なんて素敵なんだろう…
可憐でとても繊細、でも芯の通った迫力のある作品。
この作品を見た人は間違い無く魅了されるだろう。

準備が終わったのは夜中3時を回っていた。

「あっ家に電話するの忘れてた…」

「大丈夫だよ?もともと碧海がここに泊まる事になっていたから、明日の着替えも木理子さんが着物を持って来てくれる事になってる」

「そうなの?」

「その事も云いたくて連絡してたんだけどね?」

「…ごめんなさい…」

「二度と俺の気持ちを忘れないように碧海の体に刻み込まないとな!?」

「えっ?これから?」

「勿論!」

また引きずられるように部屋に戻っていった。
恭之助さんは汗をかいたからシャワーを浴びると言いバスルームへ向かったがなぜか戻って来た。

「どうしたの?」

「碧海も一緒に入ろう?」

「いえ、私は後で入ります」

「だめ!俺を信じなかった罰」と言って私の両脇を抱えバスルームまで引きずられるように連れて行かれる。

「ねぇ本当に無理だって!一緒なんて恥ずかしいすぎる」

「今更恥ずかしくないだろ?碧海のすべて見てるし」

「……」

















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