『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
サラリと質問の意図をかわされた気がした。
いろんな不安があっても、それを絶対口にしようとしない。

頑固なまでに自分は大丈夫だと言い切る。
それがどうしてなのか、俺にはさっぱりと理解が出来なかった。


「食材なんてどうでもいいけど、それより君自身は平気なのか?」


本心を見せない彼女が心配になった。
これから夫婦としてやっていこうと思ってるのに、見せる姿はいつも同じ。

お見合いの日に感じた気が合うかもしれない…という直感は、この時少し薄れていた。


「私なら大丈夫です。おばあちゃんと一緒にいるとお料理も教われるし、昔話を聞いてると久城さんたちの子供の頃のことも分かるし。
第一あの子守唄!奇跡のような歌声ですよねー。聞いてると心が落ち着いてくる。お陰で毎晩のように癒されてます」


祖母が寝室に迷い込んでくることは毎晩だった。

どんなに眠り込んでても、彼女はそれにいち早く気づく。

そして、一緒に和室へ戻る。

暫く帰ってこないな…と思い様子を見に行くと、大抵一緒に寝ている。

子供のようなその寝顔を見てると起こしづらくて、結局朝まで独り寝になる日々が続いていた。



(俺たちは結婚するんだったよな…)


未だに届けを出してはいないが、お互いそのつもりで署名した。

なのに彼女は毎晩、祖母につきっきり。
祖母を連れ込んだのは自分だから、それがいけないとも言えやしない。


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