『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
だからこそ、愚痴もこぼせた。
だからこそ、信頼も厚い…。



……急に全てを知ってしまった。
だからと言って、今すぐここから逃げ出すこともできない。


久城さんからはまだ何も聞かされてない。
忙し過ぎる彼とは、ゆっくり会話する時間も取れてない…。



(とにかく今は、おばあちゃんと一緒に帰りを待つのみだ。話を聞くのはそれからにしよう。先入観を持たず、彼の言葉にだけ耳を傾けよう……)



仕事柄、いつも心がけていたことを改めて誓っておばあちゃんの側へ寄った。


握られた包丁の刃は、いつも正確に食材を切り落とす。
その正確さは見事だ。
きっと一年中料理をすることだけを、孫たちのお腹を満たすことだけを考えてきたんだろうと思う。



『ゆる彼』の体型を作り上げたのも、基礎はそこにある様な気がする。
…だったら、やはりこの人には感謝しなくちゃいけない。


あたしの理想の人を育ててくれた。

おばあちゃんには、頭が上がらないーーーー。





「お手伝いします。…何を作りましょうか?」


エプロンを身につけながら声をかけた。

おばあちゃんの口から飛び出すのは、いつもいろんなメニューの名前。
どれもこれも「あの子の好物。大好きだよねぇ」との声が聞こえる。



……皆、おばあちゃんに愛されてきた。

だから、もっとおばあちゃんを愛してあげて。


寂しそうに見えるの。あたしには。



おばあちゃんの……顔がーーーーー。




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