『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
「えっ…⁉︎ 」

まさかな…と嫌な予感が走る。

お嬢様は案の定、オルゴールを俺の手から取り上げて叫んだ。



「紗奈(さな)が買うっ!」


やっぱりな…という展開になり、スルリ…とそれを取り戻した。



「これはダメです。俺が買うから」

「えっ!じゃあ紗奈にプレゼントしてくれるの?」


(なんでそうなるんだよ…)


自己都合もいいところだ。
人の物をすぐに欲しがる。買うと言ったら、即自分の物になると思う。

呆れる女だ。思慮も何もないのか。


「残念ですが、これは妻へのお土産です。紗奈さんはユニコーンをお買い求めに来たのでしょう?路線変更するなら俺は日本へ帰りますよ?」

 
「妻⁉ 剛さん、いつ結婚したの⁉」


目を丸くして驚く。
年の近い俺が独身でいる間は、自分も行き遅れてないと思っていたらしい。


「相手は誰⁉︎ 誰なの⁉︎」


急に焦りだした。

もはや興味は完全に逸れてる。
げっそりとしながら俺は、紗奈お嬢様に向かって答えた。


「誰でもいいでしょう!真剣に買わないのなら付き合いません!」


こっちはそんなに暇じゃないんだ。
認知症の年寄りを一人、彼女に押し付けてきてる。
ここで買い物が終了するなら、今すぐにでも飛行機に飛び乗って帰りたいくらいだ。


唇を尖らせて頬を膨らませた顔で、お嬢様は俺を睨んだ。

そんな顔されても怖くない。
顧客一人の機嫌を損なったくらいで、経営が行き詰まるような会社でもない。


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