『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
先々月の初め、「仁科香葉子(にしな かよこ)です」と名乗る女性が現れた。
手元に一枚の見合い写真を携えて、運転手の中田の同級生で、そのツテを使って参りました…と挨拶した。



「本日持って参りましたのは、私の従兄弟の子供で、『甲本愛理』という者の写真でございます。…気立てのいい、優しい子でお勧めなんですけれど…一度お目を通しては頂けないでしょうか?」


スッ…と差し出された金色の見合い写真の表紙を見てうんざりした。
日本に住み始めて何度目だろうと思いながら、顔だけ拝むつもりで手に取った。


桜色の振り袖を着た女性は、小首を傾げて笑っていた。
さも何処かのお嬢様らしき姿に、最初は興味も何も湧かなかった。



「…可愛い方ですね…」


社交辞令くらいは言っておくか…と思った。
仁科という女性はそうでしょう…!と声を高め、でもね…と続けた。


「残念ながらこの写真、20歳の時のものなんです。本人はもうすぐ30歳になるんですけど……あっ、これが最近撮った写真なんですが……」


あまりお見せしたくないわーと勿体ぶって出してきた。
普通のスナップ写真には、日頃の様子が写し出されていた。


コスモス畑の中に立つ姿は、スレンダーでカッコ良かった。
颯爽とした雰囲気を持っていて、仕事のできる女風だった。


「職場の用事で出かけた時のものらしいんですけど、ジャージなんかで写ってて……恥ずかしいですわー」


「…ジャージ?」


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