『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
「あらそう？それは失礼！」


踵を返して、他の部屋も探訪し始めた。
寝室のドアを開けて、「相変わらずおっきなベッドねー」と叫んだ。


「私達もパリで広いベッドを使ってたの。剛さんは体が大きいし、二人で寝るにはダブルサイズじゃ小さ過ぎるでしょ？」


「えっ…!?」

「紗奈さんっ！」


（突然何を言い出すんだよ！）


俺はお嬢様の言動に呆れた。

確かにホテルにチェックインする時、普通のダブルサイズでは小さいから…と、クィーンサイズの部屋を希望した。
でも、それはお嬢様と一緒に寝る為じゃない。自分一人で寝ても、自由に体の向きを変える為だ。


「変なこと言わないで下さい！妻が誤解します！」


真顔になって言い返すと、三条紗奈はお気楽そうに返事してきた。


「どうしてなの⁉︎ 本当のことじゃない！」

「どこが……！」


わざとらしい笑みを浮かべるお嬢様を睨んで、隣に立つ人の顔を見た。
彼女はちらりとこっちを黙認して、静かな笑みを浮かべて言った。


「そうなんですか…。楽しそうで…よろしかったですね」


目元は笑わず、口先だけの言葉を発した。
刺さるような視線をこっちに向け、「今夜はどうしますか？」と尋ねた。


「どうするって…此処で寝るに決まってるだろ？」


君と一緒に…という言葉は聞いてくれそうにない雰囲気だった。
冷たい目線を送ってるだけの彼女は、くるりと背中を俺に向けて言った。

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