『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
返して下さい。
翌朝、彼女の雰囲気は一変していた。

長いストレートヘアは、後ろで一括りにされている。
着ている服はジャージ素材の部屋着で、袖を肘辺りまで捲り上げ、きびきびと動いていた。


「…あっ！…おはようございます。三条様はお帰りになられたんですね」


薄いメイクで迎えられた。
張りのある声は、昨夜のものとは違っていた。


「うん…。昨夜、迎えを寄越した……」



空港で待ちくたびれていた運転手は、ガミガミと叱り飛ばされていた。
途中で事故があったらしく、道路が塞がれてたのだから仕方ない…と説明してやったが、紗奈お嬢様は全く聞く耳を持とうとしなかった。


「帰ってやるんだから、買い付けには付き合ってよ！」


捨て台詞を吐いて出て行った。
二度とこの家へ入れるもんか…と、舌を出して見送ってやった。


ーーその後、少しして和室へと入った。

祖母も彼女も、熟睡しきってるみたいだった。


…珍しく祖母の顔が汚れたままなのが不思議だった。
殆ど寝ずに２日間を過ごしてたと知らない俺は、（何故なんだろう？）と首を傾げた。


祖母の方を向いたまま寝入ってる彼女の目には、またしても涙の流れた跡があった。
和室に入った後、悔し涙でも流したのだろうと安易に考えていた。


朝になったら謝って、三条紗奈がきた経緯を説明しようと思った。


でも、この快活ぶりは何だ。
まるで、見合い写真と同じ雰囲気だーーー。


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