『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。

素直になりなさい。

「ただいま、咲子さん」


後ろから入ってきた人が女性に声をかける。

初めて会う『咲子さん』という女性に、あたしはどこか親近感みたいなものを覚えた。



「…お客様ですか？」


立ち上がりながら尋ねる。
久城さんは「ああ」と短く答え、あたしのことを紹介した。


「甲本愛理さん。しばらくの間、ばあちゃんの面倒を見てくれた人だよ」


自分がお見合いした人だとは紹介しなかった。
咲子さんは「そうですか」と頷き、あたしに向かって頭を下げた。


「大奥様が大変お世話になりました」


おばあちゃんは彼女にとって『大奥様』と呼ばれるような存在。

『二度幼な子』のように見えても、やはりセレブなご家庭の奥様なんだーーー。



「咲子さん、悪いけどこの人の額の手当てを頼んでもいいかい。出血が多くて痛そうだから直ぐにでも頼むよ」


久城さんの言葉に反応して、咲子さんがあたしの顔を見つめる。


「まぁ大変！」


大きく叫んで素早くスリッパを床に置いた。


「早くお上り下さい。直ぐに手当てをしますから！」


躊躇うことも許さず、「早く早く」と急き立てる。
困りながら靴を脱ぎだして、ワーカーシューズのままだった…と気づいた。



（そうか…大急ぎで外へ出たから靴を履き替えることもしなかったんだ…）