『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
どれだけ焦ってたんだろう…と、身に沁みて思った。
あたしに突き飛ばされた武内が追いかけて来ないうちに…と慌てて外へ飛び出した。



「お邪魔致します…」


ついこの間までは、挨拶もせずに上がってた場所。

踏みしめようとした玄関マットの上に座り、毎晩、彼の帰りを待ったーーー。



懐かしく振り返りながらもスリッパに足を通すと、後から靴を脱ぎ始めた久城さんが咲子さんに聞いた。


「ばあちゃんは?もう寝た?」


ドキン…とする言葉に振り向いた。
あたしの後ろにいる彼の視線は、咲子さんに注がれてた。


「先程まで起きてらっしゃいましたけど……もう休まれていると思います。今朝がたは3時頃から起きだしておられましたので、さすがにお疲れだったのではないでしょうか?」


向き直ったあたしを手招きしながら奥へと合図してくれる。


「そうか…早起きも大概にしないとな……」


目くじらを立てることもなく穏便に流そうとする彼。
おばあちゃんはそんな早くに起きだして、一体何をしてたんだろう…と気になる。
今更なのは分かってるけど、やはり無視はしづらい。


「…どうぞ、奥へ」


彼からも前に進むよう手を差し向けられた。

咲子さんに導かれながら廊下を進み、懐かしいリビング扉の中へと入った。


食卓代わりに使ってたテーブルセットの側にあるソファに座るよう勧められ、オドオドしなが浅めに腰掛けた。
救急箱をぶら下げてきた咲子さんは、あたしの隣に来てこう言った。


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