『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
「あたしがここに居る間、毎晩おばあちゃんは子守唄を歌ってくれました。
現実はあたしにだったけど、おばあちゃんの頭の中では違う。子守唄を歌ってあげてるのは剛さん、貴方にです!
おばあちゃんは毎晩のように、貴方や他のご兄姉のことを考えながら歌われてました!
あたしにじゃありません!……あたしじゃ……なかったんです……」


ここに居ながら、寂しくて仕方なかった日々を思い出した。

おばあちゃんの側で寝たふりをしながら、彼女が寝付くのを待った。
寝付いたら側を離れ、玄関へと向かう。

癒されたくて……寂しくて……早く彼に会いたかったから……。



ーーー思い出すと堪らなくなってきた。

ぎゅっと握りしめてる手に力が入る。

もう誰にも頼れないけど……おばあちゃんの今後の生活だけは守りたいーーー。



「…病院には通われてますか?お薬の服用は続けられてます?アルツハイマーは進行性の認知症です。
それを少しでも遅らせようと思うなら、薬の服用は継続しなければなりません。出来てますか⁉︎ 剛さん…!」


挑むように彼を見てしまった。
武内の言葉を信じたワケではない。

ただ、彼のことを信じたいだけ……。




「……してると思うよ。薬が切れてることに気づいて、咲子さんが主治医の自宅へ連れて行ったから」



思い出すように上を見上げた彼の口から、気の抜けるような言葉が聞かれた。


主治医の自宅ーーー


(…そうか。医師は病院にだけ居るんじゃないんだ……)


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