『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
ビクビクするのが声や表情に出ていないことを願った。
今また同じ仕事場にいるとは、口が裂けても言えやしない。


「……ふぅん…そうだったんだ……」


納得しつつも何かを考えてるような彼の素振りが怖い。
さり気なく視線を逸らしながら、もう帰ろう…と決め込んだ。


「あ、あの…あたし、そろそろ失礼しないと…」


久城さんにも仕事がある筈。
あたしは昼から勤務だけど、この人はきっと朝からお仕事だろうから。


「そうですね。お帰ししないといけなかった…」


忘れてたような笑顔を見せられる。

此処にいると錯覚を起こす。

今でも彼があたしのことを少しは想ってくれてるような、馬鹿な錯覚をーーー。



「…じゃ、じゃあこれで……失礼させて頂きます。どうもありがとうございまし………」



立ち上がろうとした膝からカクン…と力が抜け落ちた。

体全体を抱き寄せられて、一気に脱力してしまった。


温もりと柔らかさがあたしを包み込む。


ダメだ…と思うのに拒めない。


全身の筋肉から力が抜けて、溶けていくようーーー。



「あ…あの……久城さん……」

「剛。…そう言ったろ…」



近づいてきた熱い息ごと唇を受け入れてしまった。

入り込んでくる舌の先に、背筋がゾクゾクしてしまう。


ますます体の力が抜けていく。


ダメなのに。
離れないといけないのに………





「素直におなりなさい…」



咲子さんの言葉が頭に浮かんだ。

自分の感情をストレートに出してはいけない筈なのに。

そんな相手ではないと分かってるのにーーー。







ぎゅっ……と彼を抱きしめた。


あのお見合いの日のようにーーー。





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