『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。

彼は嘘をついてる。


（…一体何の為に？……どうして……？）



茫然としたままでいると、後ろで閉まっていたドアが開いた。


「巴山さん、俺にコーヒー入れてくんない？」


ふぁ〜っと大きく背伸びをしながら入ってくる武内。
事務所の職員に甘えるような声を出し、前に立ってるあたしに気付いた。


「やあ、お疲れ！甲本さん！」


ニヤッと笑う顔にゾッとする。
昨夜の一幕が思い浮かんで、挨拶もしたくなくなった…。



「…どうも。お疲れ様です…」


なんとか大人らしい態度を取った。


昨夜はあんたのせいで、危うく寝不足になるかと思ったけどお生憎様。

あたしはあの後、『ゆる彼』に十分癒してもらったの。


だから、今日からは平気。

何があっても、絶対に負けないから。



「おやー？甲本さんもおでこに傷できてるじゃん！偶然だなぁ。俺もなんだよね。ほら、ココ！見て見て！」


右のこめかみに貼ってある小さな絆創膏を指差す。
大袈裟に言う程、大した傷ではない。


「昨夜さ、彼女に力一杯押し倒されて出来た勲章みたいなもん。いいだろー！」


（何がいいもんか。バカじゃないの。この人……）


「やだぁ先生！おっかし〜っ！」


茶化しながら笑う巴山さんと違って、あたしは冷めた目線を彼に送った。
その上で全く無視して、側を通り抜けようとしたけど…。



「待った！」