『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
ぎゅっと肘の辺りを掴まれた。
ビクッとするのを表に出さないようにして、スッと腕を振りほどいた。


「気安く触らないで下さい！あたしは先生が大嫌いですから！」


職場の同僚だから仲良く…なんて、小学生じゃないんだからできる訳もない。

あたしはこの男が大嫌い。

念書を書かせても平気でいる。

まるで効力も何もないと、あたしに見せつけるかの様な行動を起こす。



許さない！

何があっても戦ってやるっ！



「…業務があるから、失礼します！」


武内を睨みつけながらその場を去る。


ドクドク…と鳴り響く胸の音。


第一ラウンドは終了だ。





ユニットへ上がるエレベーターに乗り込みながら、昨夜、久城さんから言われた一言を思い出した。

彼は部屋を出るあたしに向かって、「仕事先の名称を教えて欲しい…」と言った。


あたしが仕事着のまま彼のマンションまで運転してきたことをやはりおかしく思ってたせいだと思う。
話してどうなるわけでもない…と思ったけれど、教える訳にはいかなかった。



「すみません。それは内緒にしておきます…」


武内とのワケを…絶対に知られたくないと思った。

愚かすぎる自分の過去を…表になんか出したくない。


（ワケありだけど……何も無かったことにして忘れたいの。あたしは……）


もういい加減、過去の記憶に縛られるのは嫌。

強い自分を取り戻して、意地でもここで頑張る。

逃げたりしない。

戦っていくーーー！


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