『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
「武内先生と仰いましたね。その節は祖母がお世話になりました。
愛理のこともよくご存知みたいですけど、彼女は俺の婚約者ですから無遠慮な態度を取られては困ります。
……余計な事だとは思いましたけど、貴方が此処に飛ばされてきた理由もお祖父様から伺いました。
看護師に二股をかけて、訴訟を起こされてるそうですね。あまりしつこくされる様なら、こちらも同じように訴えますが如何ですか⁉︎ 」


セクハラで訴訟を起こされる医師なんて情けなさ過ぎですよ…と囁く。

堂々とした剛さんの背中を見つめ、こんな一面も持ってたんだ…と知った。


(あたしは……ホントに彼のことをまだ何も知らないんだ……)


『ゆる彼』の中に流れる強さと優しさ。

きちんと自分の勘と目で物事を判別するから信じていいと言った中田さんの言葉が思い出された。



ぎゅっとコートの端を握った。

黒いカシミア風のコートはフワフワとして暖かそうで、まるで彼自身みたいだった。



「俺は別に甲本さんには言い寄ったりしてないよ。彼女とは以前に付き合あったこともあるけど、今は何の関係もない赤の他人だ。
第一こんな鼻っ柱の強い女、俺の好みなんかじゃない。一晩くらいなら遊びで抱いてもいいけど、それ以上は御免被るね」


なぁ…?とあたしに同意を求める。

その台詞を聞いた剛さんは、グーで武内の左頬を殴った。



「馬鹿にするのもいい加減にしろっ!」


腹の底から出された声は、深夜のスタッフルームに響き渡った。

< 180 / 249 >

この作品をシェア

pagetop