『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
夜勤者がオロオロし始める。
利用者が起きてくるのではないか…と、慌てて様子を見に行く。

それに気づいたあたしも急いで彼を引き止めた。


「久城さん…お願い。静かに…!」


此処はあなたが住んでるようなマンションと違うの。

いろんな事に敏感で、些細なことに反応される方も大勢いる場所なの。

しかも今は深夜で、一番夜勤者が神経を使う時間帯。

だから、そんなふうに騒がれたら困る。

…迷惑がかかる。



ぎゅっと握った袖口に目をやって、彼が大きな息を吐いた。


「…ごめん。ちょっと怒り浸透し過ぎた…」


殴られた武内の頬は、真っ赤になって腫れ上がってる。
あたしはその頬を見ながら、微かに胸の痛む思いもしたけど……


「武内先生…あたしには二度と声をかけてこないで下さい。あの日、念書に書いた通りのこと、絶対に忘れないで!」


ーーー私、武内隼人(たけうち はやと)は、金輪際、甲本愛理さんに対し、声をかけたり、言い寄ったり、近付いたり致しません。過去に付き合ったこともバラしません。一生口を噤んでいきます。ここにそれを誓い、署名を致します。ーーー


何度も何度も頭の中で文字と文章を反芻させながら抱かれた。
自分で選んだことだったけど、悔しくて堪らなくて、吐き出しそうなくらいの屈辱を感じた。


「もしも今度、同じように声をかけてきたら、あたしはそれを持って裁判所に駆け込みます!
医師としてのプライドが少しでもおありなら女遊びばかりしてないで少しは腕を磨いたらどうですか!
その方が、貴方の今後の人生の為にもなります!」

< 181 / 249 >

この作品をシェア

pagetop