『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
その光を確かめつつ、あたしは前を歩く人の背中を眺めてた。



(……怒ってないよね…?)


あまりの心地良さについ眠ってしまった。
殆ど振動のない車と剛さんの柔らかな温もりがマッチして、気を抜きすぎてしまった。
見たこともない彼の実家に行こうとしてるのに、全く緊張感も何もない奴…と思われたかもしれない。
破天荒にも程があり過ぎる。


(ああ………どうしよう……穴があったら入りたい……!)



お見合いの日に逆戻りしたような気分になって、しょぼくれながら彼について行った。
門扉から続く飛び石の道は、緩くカーブしながら邸宅へと延びる。

剛さんの靴の踵ばかりを気にして歩いてたせいか、門扉からの距離もそんなに長くは感じられなかった。


ガチャ…という音に気づいて立ち止まった。


引き戸に鍵を差し込んだ剛さんが、鍵を引き抜こうとしてる。
その仕草を見つめながら、ここはオートロックじゃないんだ…と気づいた。


(そうだよね。ここは普通のお家だもん…)


煌びやかで豪華なシャンデリアが迎えるマンションじゃない。
何処か風情があって、趣のある佇まいだけどあったかい。

日本家屋の良さを前面に出してる様な玄関の戸が開かれて、同時に明かりが灯った。


「どうぞ」


レディーファーストが身に付いてる人に勧められて一歩足を踏み入れたけど……



「ぎゃっ!」


声を上げたあたしに驚き、彼が「どうした⁉︎ 」と声を発した。

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