『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
咳き込んでた息が止まる様に、一瞬彼女に視線を注がれた。

ぎゅっと噛み締めた唇が開き、発した言葉はーーーー


「武内とは、恋人関係でした…。別れを切り出した時、彼の暴力性が怖くて念書を書かせたの。
たった一度だけ体を許す代わりに、二度とあたしに近づかない、言い寄ったりしないと。
でも……あたしの方が彼を忘れられなかった。
ずっと誰と付き合ってても、いつも武内と比べてしまう。二人きりの時だけ優しい彼が嫌いで……でも、やっぱり好きだったから……」


悔しそうな顔をして話した。

嗚咽しながらもまだ何かを話そうとする彼女の背中をさすろうと、肩から手を動かした。



「だけど、今はそれを…凄くバカらしいことだったと思ってます……」


離そうとした手を握り返された。
女性にしては強い握力に驚き、その力強さに圧倒されながら彼女の顔を見つめた。


「…剛さんの写真を母から見せられた時、あたしの理想通りの人だ…と思いました。ぽっちゃり体型も優しそうな目元も可愛いな…って。
武内とは全然違う雰囲気の人に憧れてた時期でもあったから、是非お会いしてみたいな…と思って。
仕事でもいろいろあって、ずっと疲れてる時期だったから…誰かに癒されたかった。
本気で結婚を意識してはいなかったけど、お見合いの後、叔母から剛さんがお嫁に来て欲しいと言われてると聞かされて……」


微笑んだ目尻から雫が零れ落ちていった。
潤んだ瞳には、悲しみの色が溢れてた。


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