『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
「バカみたいに燥ぎながらマンションに引っ越したの…。好きになるのはそれからでもいいと思って……」


浅はかだった…と呟く彼女の言葉が途切れた。

自己嫌悪は彼女だけじゃない。

自分も同じだと思う。


ばあちゃんとのことがなければ、あのまま彼女と平穏に暮らしてたかもしれない。

彼女のワケを何も知らず、心に持つ傷を芯から癒すこともできないまま…。


「同じだよ、俺も…。愛理さんのことを単純に気が合いそうだなと思って部屋に呼んだ。結婚を意識したのは、婚姻届と書いた時だと思う、きっと…」


謝るとしたら、翻弄させた自分の方だと思った。
だからこそ、マンションを去る彼女に何も言えなかった。

変なプライドが邪魔した。
でも、今はそれを後悔しているーーー。


「だから、もう一度、最初からやり直させて欲しい。君の抱えてる傷ごと受け止めるから、俺に君を癒させて…」


そっと包んだ背中は前と同じく筋肉質だった。


力強いのは当たり前だ。


彼女は身と心を使って、多くの人の助けになってきたのだからーー。




「もう十分…癒されてます…」


泣き声のような囁きを発する唇を塞いだ。

足元に積み上げてたCDの山が、膝が伸びきった瞬間崩れ落ちる。


大事なものを乗せるように彼女の背中を床に置いた。

ばらけるように広がった髪の毛にぞくぞくとした寒気を感じながら耳たぶに唇を吸い寄せると、ビクついた彼女が少しだけ上体をよじらせた。

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