『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
不思議そうに聞き返す彼に頷いた。


「はい。皆さんに食事してこないようお願いをして下さい。おばあちゃんの一番の得意技を存分に活かしたプレゼンにしたいので」


にっこり笑うと、彼はやれやれ…という顔で息を吐いた。


「オッケー、了解。…それで、他には何かある?」


スーツの上着を脱ぎ始めて、中からスマホを取り出した。「4時か…」と呟く声を聞いて、慌てて彼に言った。


「もう無いです!お話聞いてくれて有難うございました!もうこんな時間だけど、剛さんお仕事は何時から?
あたしは今日が夜勤だから平気ですけど、朝からでしょう?少し寝ないと体に触っ……」


抱きすくめられて戸惑った。

ぬいぐるみのようなフワフワ感のある彼に抱かれると、あたしはあのビスクドールのような気分になる。

大事にしてもらえるなら誰でもいいと思ってた過去の自分がバカだったと今ならはっきり言える。

現在も未来も、あたしが癒してもらいたいのはこの人だけ。


『ゆる彼』だと信じた……剛さん一人だけだ……。



微かになったミント系の香りが鼻元に近づいた。
彼があたしの顎を掴んで、自分の方に顔を向けさせたせいだ。



「今日は休み。……夜まで一緒にいる……」



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