『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
ピンポーン…と玄関チャイムが鳴った。



「はーい!」


声高らかに飛んでいく母の足音が聞こえる。
パステルピンクに小花柄のあしらわれたエプロンを小脇に抱え、あたしは「よしっ!」と気合を入れて部屋を出た。



下へ降りると、母はぽかーん…とした表情で剛さんと対面していた。



「どうも御無沙汰致しております…」


丁寧な挨拶に、気の抜けた言葉を返してる。


「はぁ…。その節はどうも…」


何があったのか全く知らない母は、階段を下りてきたあたしに向かって「何事?」と聞いた。


「剛さんのご家族に会ってきます。今から家族全員でカンファレンスをするの」


「カンファレンス⁉︎ 」


介護の「か」の字も知らない母は、茫然とした顔で聞き返した。
いずれは自分も高齢者になるとはきっと頭から考えてもいない母に、「そうよ」と一言言って靴を履いた。


…老いは誰にでも平等にやって来る。
死と同じ四苦八苦の一つだと、施設に来られる住職から話を聞いた。


「娘さんをお借りします。帰りはまた送り届けますから…」


失礼します…と頭をさげる彼に導かれて外へ出た。


門扉の前に止まってる車から出てきた中田さんが、深々と頭を下げる。
その彼に頭を下げ返して、あたしはネットで見た通りの美しい乗車の仕方を真似して座った。


「…勉強したの?」と彼に聞かれた。


「うん。剛さんに相応しい女になるってメグに宣言したから!」


笑うあたしにメグというのは誰かと尋ねる。

久城家に向かう車内で、あたしは彼女の写真を見せながら、大事な大事な親友のことを話して聞かせたーーー。


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