『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
久城家の前には、黒光りした国産の高級車と派手な赤や黄色のスポーツカー、それから見たことも無い外国の車が並んでいた。


「皆さんお揃いのようですね…」


中田さんの言葉にゴクン…と唾を飲み込む。


「下りようか…」という彼のコートを、思わず引っ張って止めた。



「怖い…？」


指先が震えてるあたしを抱き寄せて聞く。


「怖いんじゃありません。緊張してるだけ…」


資料はきちんと揃えた。
誰にでも分かるように…と、仕事から帰って作ったプレゼン用の冊子。

受け入れてもらえるかどうかは分からない。
でも、何もせずに見ておくのなんて、あたしには絶対にできない…。



「……行こうか」


囁く彼に頷いた。

おばあちゃんの未来を決める大事なカンファレンスへの扉が開く。


もう引き返せない。

覚悟を決めないと。



……庭を歩きながら前を行く人の背中を見つめて、冊子を作ってた時に考えたことを思った。



（剛さん、あたしが暮らしたいのは、おばあちゃんだけじゃないの……）


どうしてこんなにもいろいろ、おばあちゃんの為にしてあげたいんだろう…と思った。
あれこれ考えてみても、やはり剛さんと一緒に居たいからだ…という結論に達した。


少しずつでいいから彼との距離が縮まる関係になりたい。
おばあちゃんの介護を通してでもいいから彼の世界に住んでみたい…。


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