『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
あのグチャグチャだった空間が、唯一自分の寛げる場所だと言って笑ってた。

初めて見せるような砕けた彼に、自分までも緩くなってくような気がした。


きちんと整頓されて、整理された事柄だけが人生なんてつまらない。

人が生きていくってことは、もっと複雑でバラバラで、うまくいかないことが多いから喜びも一入なんだと思う。


(剛さんと一緒に居たら、きっといつでも何にでも喜んでいられそうな気がする。外国のグループサウンズの曲を子守唄にするような、ユーモラスに満ち溢れたおばちゃんが育ててきた人だから……)




飛び石を辿って玄関の前に着いた。

ドキドキと速なる胸の鼓動を沈める様に息を吐いて扉をくぐる。

三和土の上に、有名メーカーのものと思われるバスケットシューズと、ヒールが細くて高いパンプス、先の尖ったキャメルのビジネスシューズに、黒くてシルバーのチェーンが付いたお洒落なブーツが並んでいた。

スクエアカットされた茶色の革靴を脱いで上がる彼の隣に、初めて履きおろしたばかりのクリーム色のショートブーツを置いた。

こうして靴を並べられるのも、もしかしたらこれが最後かもしれない。
寄り添って歩くのも、ご家族からは困るとも言い出され兼ねない。


……それでも言わずにはいられない性格なのあたしは。


ーー誰よりも、人のことが大好きだからーーー




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