『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
「…ハッシュドビーフでございます」


サラダの容器と共に置かれた料理を前に、仁さんが無言になった。


「類様はホワイトシチューと唐揚げです…」


二つの皿に類さんの眼が釘付けになる。


「聖様は好き嫌いが多くて迷ってらっしゃいましたが、結局お寿司になりました。どうぞ…」


綺麗に彩られた手まり寿司は、美味しそうな鯛のお吸い物が一緒だった。


「結華様はオムライス。トマトソースはかけずに側に置いておきますのでご自由に」


トロトロの卵から上る湯気が、ユラユラ…と結華さんの前髪を揺らす。




「剛様…」


咲子さんは、黒いお盆を持って彼に近づいた。
コトン…と前に置かれたものを見て、彼の目が大きく開いた。




「ポテトグラタンです…お母様がよく作られてましたね…」



咲子さんの声が寂しそうだった。
それを聞いた結華さんが、思い出したように叫んだ。



「何よこの料理！全部お母さんが作ってくれてたものばかりじゃない！誰が作れって言ったの！貴女なの⁉︎ 」


鋭い目線で睨まれた。
そこまでされる覚えのないあたしは、小さく首を横に振った。


「あたしではありません。あたしは、おばあちゃんが皆さんのことを考えて作られたものを出して下さい…と頼んだだけです。
全部、皆さんの好物だと言われてました。それぞれに文句が多くて大変なのよ…と、それはもう幸せそうな顔をされていました。
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