『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
思い出を残そう。
磨かれた廊下をひたすら走って彼の部屋へと向かう。
回廊式の廊下の一番端にあるドアの前で、息を整えノックした。

…当然のことながら返事はない。
本当に居るんだろうか…と不安になって、あたしはそ…とドアを押し開けた。


寝室の何処にも、彼の姿は見えなかった。
この間共に過ごしたベッドを視界に入れ、キュン…と胸が熱くなる。


足を忍ばせつつ奥の部屋へと続くドアまで進んだ。
ほぅ…と小さく息を吐いて、唯一寛げる場所だと言ってた部屋の中へと入った。



「剛さん…居ますか?」


所狭しと物が置かれてる床に目線を向けながら、ゆっくりと姿を探す。
流れてくる外国サウンズの曲を耳に入れながら奥へと歩み進めた。


『ゆる彼』の姿は見えなかった。
音楽が流れてるってことは、確かにこの部屋にいる筈なのにーー。



「…剛さん?」


きょろきょろと見渡した。

隅っこにあるクローゼットの扉が少しだけ開いてる。


まさか…と思いながら近寄った。
恐る恐る扉を開くと、中にうずくまるようにして座ってる人がいた。



「……こんなとこに居たんですか……」


膝をついて座った。
さっきの威勢の良さは影を潜め、ショボくれた末っ子の顔がこっちを向いた。




「ごめん……逃げて……」


線の薄い二重瞼が赤い。
思い出したくもないことを思い返して、感極まって泣いたんだ…。


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