『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
結婚生活って…こんなもの？
街中にクリスマスソングが流れ始めた頃、あたしは久城さんのマンションに引っ越した。

持参した荷物はほぼ衣類のみ。
他には何も要らないから…と、相手の方から言われたのだ。


「身一つで来てもらっても構わないとまで言われたんだけど、さすがに今時それはね……」

仁科の叔母さんは困ったように笑ってた。

初めて見上げる久城さんの住むマンション。
父が借りてきた軽トラックに積んでる自分の荷物を運び込むのですら勇気が要りそうな外観に、思わず（何の仕事してたっけ…？）と考え込んでしまった。



「久城君ていうのは、何の仕事してるんだっけ？こんなデカいマンションに住んで、余程の高収入なのか？」


父もあたしと同じことを考えてたらしく、不思議そうに聞いてきた。


「さぁ…」


呟く自分も少し疑う。それくらい、豪華すぎるマンションだった。



オートロック付きの３０階建てマンションの２５階にお部屋はあった。
さすがのあたしもかなり緊張しながら黒いドアの横にある呼び鈴ボタンを押してみた。

インターホンから流れているであろうチャイムの音ですらも、外には全く漏れてこないくらいぶ厚いドアの向こう側で始まる生活。


ーー今日からここで暮らす。

あの、『ゆる彼』とーーー。





カチャン…と、ドアチェーンの外れる音がした。
ドキドキと高鳴る胸の音を気にしながら、キィ…と開くドアの隙間を眺めた。


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