『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
止めるのなら今だよ…と、心の声も聞こえてくる。

でも、やっぱり誰かに癒されたい気持ちは止められなくて。


……両親のいる前で、二人で婚姻届に署名した。

交際期間も無いあたし達だからこそ、その方がいいだろう…という久城さんの提案に賛成した。


手を震わせながらフルネームを書き終えて、保証人の欄に仁科の叔母さんの名前が入れば、あたし達の婚姻は成立。
それを市役所に提出すれば、あたしは晴れて久城さんの妻になる。


でも、その前にーーー



「あの……ご両親にご挨拶しなくていいんですか…？」


お見合いの席でも此処でも、久城さんの両親には会わなかった。
お忙しい人達なんだろうか…と思ってたけど、どうやら違う理由らしい。



「……両親は、俺が小さい頃に亡くなったんだ……」



見せてくれた一枚の色褪せた写真。


彼によく似た体格のお父さんと、目元が優しそうなお母さん。

二人の間にできた彼は、切なそうに写真を眺めて呟いた。


「愛理さんに会わせたかったな…可愛い人だろう？って、自慢したかった…」


そんなでも無いですよ…と笑う父の声を、母が慌てて制止する。

二人の様子を見つめながら微笑む久城さんの横顔に、きゅん…と胸が熱くなった……。



「お二人の分も…幸せになりましょう……」


口から出た言葉に振り向かれ、嬉しそうに笑われた。

きゅぅぅぅん…と胸の奥に響く音に耳をすませて、久しぶりにときめくものを感じた。


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