『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
ーーその後、仁科の叔母がやって来て婚姻届にサインをしてくれた。

五人で軽い昼食を済ませ、両親と叔母を玄関口で見送った。
三人の笑顔がドアの向こうに見えなくなると、何故だか急に不安になった。
背後に立っている人の顔も見れずに廊下の端に佇む。


よくよく考えてみたら、まだ大して話もしていない彼と二人きり。
婚姻届に署名はしたものの、まだ明らかに他人の状態。

『ゆる彼』のことはまだよく知らない。
彼もあたしのことはよく知らない筈。


何もかもこれから始まる生活の中で、探り合いながら絆を深めていくしかないーー。




「愛理さん、あのね…」


声をかけられビクついた。
振り向くあたしに見せられたのは、『ゆる彼』の穏やかな笑顔。


その顔に癒されたい…と願って結婚を決意した。
なのに、今更ながら怖気付いてる…。


手招く彼について行き、廊下の端から二番目のドアを開けられた。


目の前に広がってるのは、広いキングサイズのダブルベッド。

ゴクッと鳴る喉の奥で、痰が絡んだような感じがしていた。

ゲホン…と咳き込みそうになって、慌てて奥へ押し込もうとする。
だけど、喉では何かが引っ掛かったような気がして、唾液ですらうまく流れていかない。

声すらも出せないくらいに緊張して、おかげで軽い目眩を覚えた。



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