『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
一人だけでこんな広い家に居るなんて出来そうにない。
それでなくても人恋しくて結婚しようかと思ったのに、旦那さんもいない家に独りきりなんてーーー。


「それは愛理さんに任せる。俺がいない間、寂しいならそうしてもいいよ。これからだってどんどん実家に帰ってもいいし、絶対にここに居て欲しいとは思わない。ただ……」


「ただ…？」


言葉の止まった彼の顔を眺めた。

笑ってた顔が少しだけ真面目になって、ゆっくりとこっちへ近付いてくる。

覆い被さる様な仕草をする彼のことを見上げ、ゴクッと喉を鳴らした。


「俺がいない間、浮気とかしたら駄目だよ。君はもう…俺のものなんだから……」


トン…と壁に背中を押し付けられ、寄ってくる顔に思わず目を閉じてしまった。

鼻先に近づく彼の息遣いを感じて、きゅっと顔全体に力がこもる。


……そのまま、久城さんがキスしてきた。


『ゆる彼』との初めてのキス。


しかも、こんな寝室でーーー。



胸が嫌が応にも鳴り出す。
この後の展開に、妙に気持ちがワクワクしてきてしまう…。


スッと離れていく体温を感じて目を開けた。
ふっくらとした顔の久城さんは、優しい目元であたしを見ていた。



「ごめん…もう出かけるから…」


ぱっと身を翻してクローゼットへと進む。
手馴れた様子でワイシャツを選び、ネクタイやタイピンをセットしていく。

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