『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
ベッドを抜け出して着替えに行った。
クローゼットの端っこに作った自分用の着替えスペース。運び込んだ衣類は僅か過ぎて、久城さんの持ってる量には敵わない。


(ホントにこの人は、一体、何者なの…⁉︎ )



「結婚詐欺!それ以外に考えられないっ!!」


昨夜のメグの言葉が頭に思い浮かんだ。

結婚詐欺をするような人が、自分の陣地を簡単に他人に明け渡したりするのだろうか⁉︎

どう見てもここにある衣類は高そうだし、まだビニール袋に入ったままの新品まで置いてある。
それなのにあたし一人を家に置いた状態で、出て行ったりするものなの…⁉︎


(ホントにただのアンティークショップの店員⁉︎ 顧客の人望も厚いみたいだし、一体どんな仕事をしてるの⁉︎ )


何処かに謎を解くカギはないかと探しだしたあたしの耳に、久城さんの怒鳴るような声が聞こえてきた。



「えっ⁉︎ ちょっと待てよ!何でそうなるんだよ⁉︎ …はっ⁉︎ 順番⁉︎ 何だよ、それ…!」


大声で叫びながら寝室に入ってきた彼は、クローゼットの奥から顔を出したあたしに気づいて声を潜めた。


「…とにかく今からそっち行く。話は会ってからにしよう。今、こっちもいろいろ立て込んでて、急には困………っ!」


ーー相手にいきなり切られたらしい。

手にしていたスマホを眺めてベッドへ放り投げ、こっちへ近づいて来る。
オドオドするあたしに目を細めて、にこっと笑いかけた。


「朝ご飯一緒に食べたかったけど、どうもそんな時間無くなった。急ぎの用事が出来たからすぐに出るよ。そのまま仕事へ行く。愛理さんはこれで適当に食べといて」


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