『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
はい…と手渡されたのは、現金……じゃなくて、もしやこれは……




「ゴ、ゴールドカード…」



万年現金払いのあたしでも、ゴールドカードやブラックカードの存在くらいは知ってる。

久城さんが手渡してくれたのは有名なカード会社のもので、あたしは初めて見るキャッシュレスカードの存在に、わなわな…と手が震えてしまった。


「あ、あの…久城さ…」


彼の指先で唇を押さえ込まれた。

にこやかな笑みを浮かべる『ゆる彼』が、髪についた滴を額に垂らして言った。


「…剛(たける)。名前で呼んで。君もすぐ『久城愛理』になるんだよ?」


舐めるようなキスを頬にして、直ぐにワイシャツを選び始める。
あれこれ迷わずに決められるのは、どうやら着る順番を決めてるかららしい。


「これだけあると何を着ていいか迷うだろ?だから、一番左端から着るって決めてるんだ。クリーニングから上がってくるのは一番右。そうすれば、絶対に迷わない!」


ネクタイもタイピンも同じ要領みたいで、だから、昨日もあれだけ準備が早かったんだ。



「着せてくれる?」


昨日と同じようにスーツの上着を手渡された。
どうやら久城さんにとっての妻は、それをするのが役目らしい。



…一抹の不安を抱えながら、服の袖を通させた。
背中から肩に引っ掛けてもらいながら、昨日とは違う感情を抱いた。


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