『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
ユイカちゃんが誰かはっきりしないけど、きっと敬語で話す相手ではないのだろう。


「私は後からでいいよ。ユイカちゃんが食べて美味しかったらそれと同じ物を作る。美味しくなかったら、また別の物を作ってあげるからね」


優しい言葉を投げかけられ、痛んでた心がますます痛くなった。


あたしは施設の高齢者に、こんなにも優しい言葉をかけたことがない。
毎日続く激務の中で、気づくといつも言葉は荒れてた気がする。


「帰りたい」と叫ぶ人に「帰りなさい!」
「もうここを出る!」と泣く人に「どうぞ、ご勝手に!」


……散々な言葉を繰り返して、更に気持ちを暗くさせてた。



だから、こんなに優しくして貰うと困る。

あたしはこの人に良くしてもらえる様な人間なんかじゃない……。

施設で最低なことを繰り返してきた。そして、嫌になって逃げ出したんだーーー!





「うああああん……!!」


突然泣き出したあたしに驚き、おばあちゃんは一瞬ビクついた。

でも、子供のように泣き崩れるあたしの側に来て、優しく声を掛けてくれた。



「…どうしたの?ユイカちゃん…?」


グレーっぽい瞳の中には、あたしではなく『ユイカちゃん』が写ってる。


(この人はやはり認知症だ。しかも、結構進行している…)


初めて会った『ゆる彼』の肉親がそうだと分かって、あたしはますます悲しくなった。



「おばあちゃーん…!!」



ーー全く縁もゆかりもない人が、いきなり自分の親族になった。
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