『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
開けた途端、足元の視界に人がいたので驚いた。

玄関マットの上で膝を抱えたまま、彼女はうつ伏せて眠っている。
近くに祖母の姿は見当たらない。
何かあったんだろうかと心配になって、慌てて側へ寄って行った。



「愛理……愛理さん…!」


ゆさゆさ…と肩を揺らすと、彼女は眠そうにうつ伏せていた頭を起こした。



「…あ……久城さん……おかえりなさい…」


寝ぼけた声でそう言うと、再び寝てしまいそうになる。
驚いた俺は靴を脱いで、彼女の体を持ち上げた。


伸びてきた腕が、ぎゅっ…と首に絡みつく。
初対面の時からそうだったけど、やたらくっ付きたがる癖があるみたいなのだ。



(…これで襲いかかるな…と言う方が無理だよな…)


今朝の拒否を思い出しながら、彼女をベッドへと運び込む。
寝心地がいいと言っていたマットレスの上に身体を置くと、あっという間に眠りの世界に引き込まれていった。
静かな寝息を立てて眠りだした彼女の頬に口づけて、ふわっと軽い布団を掛けてやった。


(…ばあちゃんはどこへ行ったんだ?)


心配になり、あちこち部屋の中を探しだした。
寝室の向かい側にある和室の布団の中で姿を見つけた時は、ほっ…と胸を撫で下ろした。 



……ばあちゃんは、綺麗な顔をして眠っていた。
朝に見た混乱ぶりは影を潜め、穏やかな寝顔をしている。
どうやらお風呂にも入ったらしく、引っ付くように纏められてた髪の毛は、きれいに洗われ解かれていた。

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