『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
今のところ、主に世話をするとしたら彼女しかいない。自分は仕事が多くて、家にはなかなか居れないからだ。

話させたくない思いを抱きながらも、半ば仕方ない感じもしていた。

姉の結華や他の兄達から順に回ってきたばあちゃんの世話。
それに主に携わるのは俺じゃない。俺たち兄弟の不仲に突然巻き込まれることになった彼女自身だ。


医師がその彼女に伝えたい注意事項があるのなら聞いておいてもらわないと困る。
それを引き継いで、長男の『仁』に伝えていく必要がある。


「…説明は妻の愛理にお願いします。私はそろそろ仕事に戻らないといけませんから失礼します。愛梨さ……」


さん付けで呼ぼうとしたが、この胡散臭そうな医師の前では、正式な夫婦と振舞ってた方がいい様な気がした。

彼女とは何やら特別な感じもする。
しっかり釘を刺す意味でも、あやふやな態度は避けておいた方がいい。


「愛理、武内先生から聞いた注意事項、今夜また教えてくれよ。…悪いけど俺は仕事へ行く。ばあちゃんのことよろしく頼むな」


極めて冷静に、夫らしく…と、ひきつりそうな頬を堪えて伝えた。

それなのに彼女の方は、不安そうな笑みを浮かべ、「はい…」と小さく頷くだけだった。


そんな顔をされると堪らない。

置き去りにしたくてするんじゃない…と、言い訳がしたくなる。

でも、今ここで、それを奴に聞かせるのは癪だ。


ならば……




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